SS <love and hate> 6 (完)

四月です。

<love and hate>もようやくfinを打つことができました。
こんなにかかるとは、予想外でした。
去年の今頃の私の予定では、コレ、夏の終わりに出すはずだった!!
予定は未定で、決定にあらず、を実感中。
これからものんびりと進むと思います。


楽しんでいただければ、うれしいです。






*戴いたコメントにお返事しました。(4/13)








     <6>






予定を終えた未沙は、基地内の自室に戻る。
輝がいない部屋は心細くて、すこし淋しい。
任務の時間がいつも一緒とは限らず、入れ替わりで出ていくことも多かったのに、
帰宅時間が数時間後と数日後では、やはり違う。
そして、13、4で生家を出てから今まで、
ひとりでなんでもやってきたことを思い出して、小さく笑った。

輝がいつも座る椅子に腰を掛け、ケータイの写真をスクロールさせ、指を止めた。
髪を切ったばかりの自分とミンメイ。
彼女に抱いていた気持ちは、あの日を境に大きく変わったのに、
同じ艦に乗り込むとなると、心の底が小さくざわつき、落ち着かない。
今、輝は彼女と同じ街にいる。
不安はか細いクモの糸のようにまとわりつく。
振り払うように左手の指輪に視線を落としてため息をつくと、
ケータイを傍らのテーブルに置き、体を伸ばした。


着信を知らせる音色が聞こえる。

いつの間にか椅子にもたれて眠ってしまった未沙は、慌ててケータイを掴む。
「寝てたの?」
「ん、ちょっとだけ」
隠したつもりの寝起きの声は聞き分けられてしまうが、自然と口許がほころぶ。
「記者会見、見たわ」
「俺、途中で出た」
「誰かさんがメガロードに乗るから、ってあたりでしょう?」
「おともだちです、って言ってただろ?」
「まあ、そんなところね」
電話越しに輝も笑っている気配がした。
「上手く行くといいな」
「ほんとね。
そしてあなた、総司令への報告は?」
「ああ、無事に終わった。
そのあと、クローディアさんと、三人でお茶飲んできたよ」
「本当は私が行くはずだったのに、ごめんなさい」
「いいよ。
未沙が現場にいないと、回らないことが多すぎるんだ、今はね。
俺も直接顔を合わせたほうが通りのいい話もあったし、気にしないで」
「ありがとう」

会話が止まり、沈黙が優しく流れる。
遠く離れた場所にいても、つながっているこの瞬間が心地よい。
「・・・あのさ」
輝が、言いづらそうに切り出した。
「総司令とクローディアさんから、未沙に伝言」
さっきとは打って変わった早口に、未沙は首をかしげる。
「早く子供作れって」
「えっ!?」
「その子に、会いたいって」
ふぅっ、と長い息を吐き出した音が届く。
向こうで赤くなっているだろう、輝を想う。
そして自分の頬も熱くなっていくのを感じて、わざと強い調子で返した。
「そんなにすぐになんて、無理よね」
「先に延ばしていると、いつまでもその日は来ない」
きっぱりと輝は告げる。
未沙は言葉を呑んだ。
「そう言われたんだ、総司令に」
照れもない、穏やかな口調で輝は言った。
面白半分で子供はまだかと囃されることはあるが、
グローバルとクローディア、二人からの言葉は、
特別な重さをもって未沙の胸に届いた。
それは輝も同じであることは、口調でわかった。
今日と変わらない明日が来ることが、どれだけ幸せなことなのか。
ましてや輝の仕事は、戦闘がなくても、事故で命を散らす者も少なくない。
いつもは覆い隠している不安が、滲みだしてくる。
「メガロードが飛んだら、考えよう」
「ええ」
声が震えないよう、必死にこらえた。
死のにおいは、過去の出来事を呼び起こし、未沙の不安を深める。
「あと・・・」
のんきなかんじで、輝は続ける。
「ちゃんとベッドに入って寝るんだぞ」
「な、なによ、その言い方」
「また仕事持って帰ってきてるだろ?
居眠りで繋いで、そのまま出ていくの、やめろ」
「・・・あなたも偉くなったもんね」
「だって、大事だから」
さっきまでの威高げな口調とは打って変わった、ちいさな声だった。
「体壊したら、元も子もないだろ」
照れくさいのか、また元の口調に戻っていて、未沙は小さく笑う。
「あなたもね」
ああ、と輝が相槌を打つと、ふたたび沈黙が訪れた。
「ねえ、今、なにが見える?」
未沙はデスクの写真立てを目で探す。
初めて二人で迎えた朝に、輝が撮った写真。
「月。すごく綺麗に見えてる。
・・・早く帰りたいな」
「今、家じゃないの?」
「家だけどさ。
未沙がいないと、よそんちみたいだ」
そして左手の指輪で視線が止まる。
「私もおんなじよ。
あなたがいないと、部屋が広くて変な感じ」
指輪を見つめながら、未沙は続ける。
「早く会いたい」
「俺も。
そういえば、今日は、俺がアポロ勤務だったときと逆だ」
「懐かしいわね」
あのときは、ひまさえあれば空を見上げ、月を探していた。
通信が技術においても回線が限られていたため、私的な通話は自由でなかったし、
なにより当時の二人は、友達より親しいけど、恋人ではなくて、
あたりまえのように連絡を取りあう関係ではなかった。
輝の方からかかってくると、あら、どうしたの?と、鷹揚に構えながら、
うれしさに弾んでしまう心を必死で隠していた。
そして自分からは尻込みをしてしまい、
留守にしているおうちを預かっているから、報告しなきゃ、と、理由をつけなければ、
未沙には輝に連絡を取る勇気が出なくて、
今は、そんな自分の姿を懐かしく、かわいらしく思えるほど、時間は流れた。

「明日になれば会える」
未沙の心細さは、ほどけていく。
「待ってるわ」
「ああ」
また、会話が止まる。
それでも未沙は自分から切ることができず、電話から伝わる輝の気配を聴いている。

「もう寝るよ」
輝が明るい口調で告げた。
終わりが告げられ、淋しさが湧き出すが、振り切るように未沙も明るく応える。
「おやすみなさい」
完全に通話が切れたのを確認して、名残惜しそうに未沙もボタンを押した。
画面が暗転すると、ため息がこぼれた。

デスクに置かれたファイルとパソコンに視線を向ける。
時間にも心にも、余裕がない今の自分には、子どもなんて夢物語だが、
輝が言うように、どこかで折り合いを付けなければ、夢は永遠に夢のままになってしまう。
肩を落とし、大きく息をつき、フォトフレームを手に取ると、輝の笑顔を指でなぞった。





    ☆





メガロード01は、月から火星までの試験運航が行われ、
第一次長距離移民船団の旅立ちの準備は順調に整っていく。
ミンメイ乗艦の効果もあって、伸びがいまひとつだった移民志願者も予定数に達した。

アラスカと呼ばれていたマクロスシティの夏は、速足で通り過ぎていく。

八月が終わる。
シティの人々をはじめ、世界中が待っていた、その日が来た。
ミンメイのコンサートには、メガロード01も絡む話なので、
艦長である未沙は来賓として招かれていたが、その方面を担当していた松浦に任せた。
ここのところ、公に顔を出すことが多くなった未沙は、
特別扱いされるのが煩わしくなっていて、
ミンメイから招待席を送ると連絡が届いていたが、丁重に辞退していた。
チケットは、座席の場所は会場の後ろの方に、二人分確保できた。
それでも会場内で観られるのは幸運なほうで、
シティの各所に設置される、
パブリックビューイングですら席が取れなかった人々も少なくない。


様々な調整が奇跡的に巧くまわり、未沙はその当日、丸一日休みが取れた。
一方、輝は、大掛かりなイベントの開催に伴う強化パトロールに組み込まれ、
何事もなければ夕方には未沙と合流する。

梅雨が終わる前に買った夏の服を、はじめておろす。
夜には肌寒くなることはわかっていても、どうしても着たかった。
こうしてふたりで出掛けることが、しばらくの間、持てなくなることがわかっているから。
飛び立つまでもあわただしいが、
進宙しても新しい環境に馴染むまで、まとまった自由な時間は持てずに、
家に帰っても疲れて眠るだけの日々は、まだ続いていく。

新しいアイカラーをまぶたに、丁寧にのせる。
昼間、遅い勤務に就く前のクローディアと待ち合わせ、
ランチを取り、道すがらウインドウショッピングをしたときに、手に取ったものだ。
未沙は、笑顔を映す。
一目でわかるような鮮やかさはなく、肌になじむような色合いなので、
輝が気付くとは到底思えないが、おしゃれして出かける、それだけで特別な気分になれた。


支度の整った未沙は、外に出た。
約束の時間から、10分は経とうとしている。
何事もなく、順調にパトロールが終わっていることは、連絡が入っていた。
顔見知りのパイロットに捕まって話し込んでいるのだろうと見当をつけ、
ちいさくため息をこぼすと、顔をあげてあたりを見回す。

暑さはやわらぎ、涼やかな風が吹きぬける。
夕方の、金色の光があふれる時間に、
おだやかな気持ちで過ごしたのは、どれくらいぶりだろう?
大きく息を吸い込んで、
宇宙では感じることができない、本物の陽の光を、未沙は全身で愉しむ。

勤務交代の時間帯以外は、そんなに人通りのないこのエリアでも、今日は違い、
見知った顔が軽く会釈をして通り過ぎていく。
未沙も礼を返しながら、彼らの後姿と、その先に視線を向ける。




そして、待ち焦がれていた姿を見つけて、大きく手を振った。










      fin







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非公開コメント

No title

> VF-4さん

ねぎらいのお言葉、ありがとうございまーす♪
なんとかここまでやってきました。

輝と未沙の子供だから、きっと元気の良い未来でしょう(笑)
垣野内さんのイラストでは、
茶色い頭がほわほわで、かわいかったなぁ(*´▽`*)

いつか書けるといいなあ、と思います。


No title

> ぱよぷーさん

ありがとうございます♪

幸せにしたというより、
あの方々、みんなそういう力があると思うのですよ!
少なくとも、あの「天使の絵の具」前半部分から受けたのは、
そういう雰囲気だったので、
少しでも感じ取っていただければ、うれしいです。

また細々、のんびり、やっていこうと思いますので、
よろしくおねがいします。

プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

戴いたコメントは、すべて非表示にしています。

SSの目次を「SS menu」としてリンクに張り付けました。
ご活用ください♪

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