SS <step> 前編


桜の早い、穏やかな春だと思っていましたが、大きな地震。
一日も早く、いつもの時間にもどれますように。




さて、今回も劇場版。
地球ですごした日々が舞台です。

ゆばさんに差し上げたSSの双子にしたかったのに、
その後に続く話になりました。

楽しんでいただけたら、うれしいです。





*戴いたコメント、拍手コメントにお返事しました。(4/22)(4/26)









<step> 前編






未沙はすっきりと朝を迎えた。

昨日はライバーを近くに感じ、
その嬉しさから輝を相手に思い出話をした。
彼は嫌がりもせずに聞いてくれ、
未沙はめずらしくはしゃいだ気分のまま眠りにつけた。
それがまだ抜けずに残っているのかもしれない。
寝床で身体を伸ばした。
血液が体の隅々まで行き渡り、なんでもうまくできそうな気がする。
テントに朝日が差しこみ、一日はとっくに始まっていた。

夜具を畳み、外に出る。
朝もやが薄く残り、テントの表面はうっすらと湿っていた。
仕掛けておいた装置に水が溜まっているのを確認して、安堵する。
輝の姿は見えない。
海のそばに野営した日は、夜が明けきらぬうちに彼は釣りに出かける。
未沙は、薪の代わりになるものを探し始めた。
最初の頃は目覚めて誰もいないことに驚いたが、
今では自然と決まった役割をこなしていく。

今日はライバーの気配が薄らいでいた。
命日でも誕生日でも記念日でもないのに、
彼のことを近く感じること自体が不思議だった。
「こんな毎日なのよ」
それでも未沙は、ライバーに向けて語り掛ける。
今は輝の姿もなく、そのほかには誰もいない地球だから、かまわない。
「あなたのそばにすぐにでも行きたいって思っていたのに、おかしいでしょ?
地球がこんなになっても、まだ生きていたいって思うの」
手ごろな木切れを何本か抱え、未沙は立ち上がる。
波打ち際に人影を探すが、まだ気配はない。

霧は晴れ、からりとした日差しが照りつけ始める。
未沙はVT102が落とす影に、拾ってきた木を組んだ。
手製の着火剤を使って、器用に火を起こす。
最初の頃、加減がわからず、輝に怒鳴られた。
腹は立ったが、たしかに危なっかしいやり方だったと今ならわかる。
そしてマニュアルにはない輝の知識に感心し、ちょっとだけ頼もしく感じた。
ちいさくともった火は勢いをつけ、たくましく燃えだす。
しかし、着火剤の材料になる燃料も豊富にあるわけではなく、
今日、明日でなんとかしなければならない。
現在いる場所と今までの地球の地図を、頭の中で重ね合わせてみる。
お目当ての基地が跡形もなく消し飛んでいないことを願いながら。

目の前にとぼけた顔の魚が差し出された。
「今日は二匹」
顔を上に向けると逆光の輝。
表情は見えないが、声は得意そうだ。
「ありがとう。おつかれさま」
未沙は立ち上がる。
彼女が目覚めてから今までの時間は、短いものではない。

さほど大きくもないナイフで、未沙は魚の臓物を外した。
真水で濯ぎ、串に刺し、火で炙る。
「お塩があるの」
「海の水汲んでた、あれ?」
「そう。出来たのは、ほんのちょっぴりなんだけど」
未沙は粉薬のような紙包みを取り出した。
操縦か整備のマニュアルだったらしく、計器の図が見え隠れしている。
「今日の分くらいはあるはずよ」
輝は口元を緩める。
「味がない魚は飽きた」
「お魚が食べられるだけでもありがたいのに、人間は贅沢ね」
未沙は笑った。
「今日も作るわ、と言いたいところだけど、そうもいかないみたい」
「俺もそう思ってた。燃料、やばいよな」
輝はうなずいた。

マクロスにいたころ、未沙と輝は事あるごとに衝突していた。
未沙の指示を彼は時々無視し、自分の判断で動いた。
ミンメイと閉鎖空間に閉じ込められたりもした。
そんな彼と、こんなふうに毎日過ごす。
イライラと腹を立てているあのころの自分に教えても、きっと鼻で笑い飛ばすだろう。
見ているものが同じだと、こんなにも上手く行く、その事実が面白かった。

魚はあまり大きくなかったが、
食べる量が減って胃が縮んだのか、それなりの満足感が得られた。
ごちそうさま、と手を合わせ、後始末をするため未沙が立ち上がったとき、
輝の声がした。
「今、なにか言った?」
「・・・ライバーって、」
輝から、彼が知るはずもない名前が飛び出して、驚いた未沙は立ち尽くす。
かまわず、輝は目をそらして続けた。
「寝ながら呼んでたよ」
未沙は顔が熱くなっていくのを感じた。
「いつ?」
「昨夜。
すごく嬉しそうな声だった」
輝はまっすぐに未沙を見た。
「昨夜彼の話をしたから、会いに来てくれたのかしらね?」
「・・・うれしかった?」
「わからない。夢なんて、見たかどうかも覚えていないんですもの。
でもね、面白いことに、今朝はすっきりした気分で目が覚めたわ」
目覚めるときに全部忘れてしまえるくらいの、幸せな夢に招かれていたのかもしれない。
ライバーがいないかなしみを微塵も感じないほどの、深い眠りに。
辻褄が合い、未沙はそれを受け入れた。
輝は面白くなさそうな、どちらかというとすこし不満そうな表情を浮かべていた。
「ねーえ、ほんとは怖いんじゃないの?」
彼の顔つきに気付いた未沙は、斜に構えて、輝をからかう。
「怖くなんかないさ」
真顔で彼は応える。
「だって、大尉が好きだったひとなんだろ?
悪いことなんか、するはずない」
とくん。未沙の心臓が音を立てた。
とくんとくんとくん、脈打つリズムが早くなっていく。
「大尉?どうしたの?」
立ち尽くす未沙に、輝が声をかけた。
我に返った未沙は気づかれたくなくて、早口で告げる。
「やっぱりあなた、いいひとね」
『いいひと』に反応した輝は、わざと顔を崩し、
はいはいはい、と返事を重ねて立ち上がった。

手早く撤収作業を終え、VT102は飛び立つ。
後部座席の未沙は、見え隠れする輝の後ろ髪を見つめる。
その跳ね方がかわいらしく見えて、自然と顔がほころんでいった。

会話はない。
VT102は順調に飛んでいく。

なんとはなしにこの生活に慣れるまでの日々を思い返していたら、
輝がこの席に乗せた彼女の面影が大きく膨らみ、未沙の心を圧迫し始める。

「早瀬さん、具合悪い?」
ミラー越しに輝が声をかけてくる。
なんでもないわ、とぶっきらぼうに返事をする。
ほんとうは、自分の些細な変化に気が付いてくれて嬉しい。
だけど、さらけ出すわけにはいかない。
「コロコロ変わって、天気みたいだな」
輝のひとりごとじみた嫌味に反撃する気力も起きず、海と空の境を見つめた。

















スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

> やまちんさん

楽しんでいただけて、なによりです♪
不自然にならないように心掛けたので、
読み取っていただけてうれしいです(#^^#)

後編、もう少しお時間いただきますね。
待っててくださいね~(^_^)/


No title

> ゆばさん

輝も気になってしょうがなくて、みたいなモヤモヤ(笑)
スッキリするのはあの遺跡だから!!って、
ニヤニヤしている私もヤバいわ~(^_^;)

状況は違えど、「恋」の感じが出ていたらうれしいな。

その先がわかる部分だから、
この辺書き込んでいくのは、すっごい楽しい!!
・・・でも、後編はもうちょっと待ってておくんなましね(汗)

No title

> ミルクティーさん

はじめまして。
いつも読んでいただいているとのこと、ありがとうございます。
ふたりらしく感じていただいて、ほんとにうれしいです!
二次創作なので、そこが一番大事だと思っています。

我が家は読み逃げ推奨なのですが、
コメントや拍手をいただくとものすごくうれしいので、お気軽にどうぞ~♪
コワくないよー!!

後編は、もうしばらくお待ちくださいね。

No title

> misarinさん

はじめまして、ぶいです♪
動画からの再燃さんなのですね~。
そして二次創作の世界にようこそ(笑)

misarinさんにドキドキしていただけて、うれしいです。
劇場版では、未沙がビックリ顔の魚食べたら遺跡発見。
あっというまに仲良くなってましたね~(笑)
その間になにがあったんだーーーーっ!!
小説版では読んでいて嬉しくなるようなエピソードがあったのに、
映画にはなかったのが、非常に残念です。
違和感なくおままごとに繋がってくれたら、と必死に続き書いてますので、
もう少しお待ちくださいね。

私は、ミンメイに抱きつかれた輝を見た未沙が、
後ろ手でドアを閉めたとき、「ロマネスク」を思い出し、
ああ、未沙が、未沙が逃げない!!って、感無量になりました。
ほんとに嬉しかった!!
TV版の無念は映画で晴らした(笑)

また遊びに来てくださいね。
プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

戴いたコメントは、すべて非表示にしています。

SSの目次を「SS menu」としてリンクに張り付けました。
ご活用ください♪

最新記事
カテゴリ
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム