SS <step> 後編

GWはじまりますね。
ご予定の合間に楽しんでいただけると、うれしいです。





*戴いたコメント、拍手コメントにお返事しました。(4/29)(5/13)










<step> 後編








そして数日が経った。
ふたりの間を流れる空気は、穏やかなものだった。
輝の言葉、まなざし、仕草。足場が不安定な場所で、すぐに差し出される手。
エスコートというほどかっこよくもないが、
女の自分をかばう輝に、場違いなほど甘くときめく。
ときめきが大きいほど、その揺り返しは厳しい。
自分だから特別な扱いを受けているのか、
それがクローディアでも、シャミーでも同じなのか?
知りたいけど、知りたくない。
この放浪の日々が始まったばかりの頃は、ミンメイの存在を重く感じることもなかった。
変ったのは、輝か、自分か?
未沙はため息をつく。

その晩の食事を終えたころ、雨がテントを叩きだした。
「ちょっと冷えてきたな」
輝は焚火の前に近づいた。
「もっとこっちに来れば?」
笑顔で、なんの屈託もなく勧めてくる。
ええ、と頷くも、素直に踏み出したい気持ちと、
制止する気持ちが絡まり合い、未沙は辛くなる。
「やっぱり私、今日はもう休むわ」
それだけ告げて、未沙は毛布を寝床に変えていく。
「なんかさ、最近元気ないよ?」
「こんな状況だもの。元気でいられるわけないでしょう?」
声が尖った。受けた輝の顔つきがきつくなった。
「またライバーさんに来てもらうといい。
まったく、あんたの気分に振り回される、こっちの身にもなってほしいもんだね」
未沙の手が止まった。
涙がこみ上げてきたが、きつく唇を噛んでこらえ作業を再開し、
輝に背を向け、早々に体を横たえる。
「ごめん。言い過ぎた」輝が小さな声で詫びた。
「私こそ」
未沙は振り返らずに、そっけなく応える。
雨音が、大きくなっていく。

未沙は、強く瞼を閉じ、涙を落とした。零れそうな嗚咽を、意地で抑える。
お風呂に入りたい。きれいな服に着替えたい。
清潔な場所で、安心して眠りたい。
おいしいものを、おなかいっぱい食べたい。
今の暮らしでの不満をならべあげる。涙はとまらない。

雨は強くなり、遠くで雷鳴が聞こえ始めた。
輝も眠る支度を始めた。火は消され、暗闇が訪れる。

未沙は、泣き声をちいさくこぼしてしまった。
それは雨の音でかき消されたので、輝は気づかない。
しかし、こぼれた泣き声は我慢を重ねた分だけ転がりだし、とまらなくなった。
クローディアに、みんなに、会いたい。
誰でもいいの・・・一条君じゃなければ。


「泣いてるの?」
輝の声がして、体を起こす気配がした。
「だいじょうぶよ」未沙はとっさに応えたが、声はしめったままだ。
「へんな夢、見ちゃった」
「・・・そっち、行こうか?」
「いいの。ほんとに大丈夫よ、ありがとう」
未沙は気丈に応えた。
それ以上はしょうがないと判断したのか、輝がふたたび眠る姿勢にもどったのがわかった。

輝の声と気遣いは、未沙をほんのりと温めた。
涙がとまる。
眦をぬぐった。
顔を動かし、輝の背中を見つめる。
そのとき、偶然に輝が身じろぎ、未沙は慌てて寝返りを打つ。

マクロスに戻るまで、ううん、ミンメイさんに会うまで。
私が勝手に好きなだけ。
彼になにか望んでいるわけじゃないわ。

落としどころが見えてきて、少し気が楽になる。
未沙は静かに瞼を閉じた。


夜には限りがあって、必ず朝は訪れる。
その日の未沙の瞼は腫れていた。
輝はラベルが読めないくらいダメージを受けている缶詰を開ける。
「お、コーンだ!
腹いっぱいとはいかないけど、しっかり食べれば夢なんて忘れるって」
缶を手渡しながら、輝は未沙の顔を見た。
「・・・冷やしたほうがいいんじゃない?」
「そんなに酷い?」
受け取った未沙は、左手で目を触る。
「俺は気にならないよ」
「じゃ、いいわ。お水がもったいないし、ずっとこのままってわけじゃないもの」
輝は横に平たい缶のプルタブを慎重に持ち上げて開けた。
「こっちはアスパラか。野菜ばっかりで腹持ち悪そう」
「半分食べたら、交換しましょう」
溢さぬように、器用にふたりは食べ始めた。
「あのさ」
「なあに?」未沙は顔をあげる。
「泣きたくなるほど嫌な夢見たときは、起こして」
輝は食べ続ける。
「気分転換に話をするくらいは、俺でもできる。
・・・いいひとだからさ」
やさしさが未沙にしみ込んでいく。
そのせいで目頭が熱く、涙がこぼれそうになる。
「大尉はむっつり黙りこくったり、めそめそしてるよりも、
怒ったり、笑ってるほうが絶対いいよ。
その方が俺は助かる」
未沙は、可笑しくなって噴き出してしまった。
輝もようやく表情を緩ませ、ほら、と、アスパラの缶を差し出す。
受け取った未沙もコーンの缶を渡す。

「今日は海に出よう」
「お魚、食べたくなったのね」
「あったりーっ!!」
顔を見合わせたふたりは、笑いあう。

ふたりの『今日』が、始まった。







fin





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No title

> ゆばさん

「そっち行こうか?」に、「うん」って言われて、実際にそばまで行って、
このあとどうしようって狼狽する彼の姿も面白そうだよねー(笑)
背中くっつけて横になったはいいけど、
意識しちゃって、やばいっ!!みたいな。←なにが(笑)
そういう心理がかけたらいいのにー!私にはまだ荷が勝ちすぎる。

輝は素直でいい子なんだけど、どっかまだ幼くて、
その幼さがこの経験や、その後の経験で抜けていっちゃうのよね。
地球で未沙とふたりっきり、
大人だったら、大人のやり方があったのだろうけど、
まだそこまでいかない、いけない、もどかしさが好き~💛

そして、うれしいお言葉ありがとうございました!
まだまだ書くぞー!!

No title

> ミルクティーさん

始まったばかりの恋で、しかも輝にはミンメイの存在があって。
でもふたりっきりだから、やり場なくって、ツラいですよね。
きゅん、とする、ほんとに懐かしい感覚。
あんまり最近してないわ(涙)
自分が大人になっちゃったなーってちょっぴり悲しくなりました(^^;

次、何を書くかはまだ未定なのですが、また遊びに来てくださいね。

No title

> やまちんさん

楽しんでいただけたのですね!
よかったぁ~(#^^#)

この状態に行きつくまでの期間は、
結構あったんじゃないかなぁと思います。
なにせ、奥手のふたりだから(笑)
でも意識してからの進展は猛スピードかな?とか考えると
ニヤニヤキモチワルイ私でーす(^^ゞ

No title

> misarinさん

私もあの「ただいま」からままごとにかけて、
輝が未沙のことを愛おしいというか、
好きだとはっきり意識したというか、
覚悟決めたんじゃないかと思います!(力説)

あの状況で、何も言わずままごとに参加する輝が大好きです~(#^^#)
その優しさが我慢していた未沙には辛かったので、
泣いちゃったんじゃないかな~。
もっと巧く表現できればいいのですが、ごめんなさいね。
きちんと言葉になったら、SSで表現できたら、と思います。

そして「ロマネスク」の輝の頭を一発殴りたいに、
私も一票でーす(^_^)/
横っ腹にダイダロスアタックだよね、ホントに!!


No title

> VF-4さん

五月は気候が不安定で、
体調崩されるかたが多いですが、もう大丈夫ですか?
お仕事おつかれさまでしたーっ。

小説ではうれしいエピソードがあるのに、
映画ではほとんどなくて、
どうやって仲良くなったんだい!っていうのと、
何も描かれなかった故に、
えええええええーーーっ!!ってうれしかったり、
ある意味、いろんな楽しみ方がありますよね~。
地球での話が少ないからこそ、
輝の部屋での告白が盛り上がるのかもしれません。
なんか考えただけでニヤニヤしてしまうわー(笑)

第二弾も楽しみにしていますので、頑張ってくださいね♪


プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

戴いたコメントは、すべて非表示にしています。

SSの目次を「SS menu」としてリンクに張り付けました。
ご活用ください♪

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