SS <what a wonderful world!> 6 (完)

長い一夜がようやく終わります。




楽しんでいただけると、うれしいです。



*戴いたコメント、拍手コメントにお返事しました。(6/30)(7/3)










<6>




*1:48




ぼそぼそという声は聞こえているが、瞼は重くて上がらない。
人の気配が嬉しい。
チームの大人たちの中で眠っていた、幼いころのようだ。
だれかのしゃべる声が耳に心地いい。
もうちょっとこうしていたいと、輝は思った。
「いい加減にしなさい!」
突然の大声に眠りは破られる。

眼前には、細い脚首。
たどると仁王立ちの未沙。
「やっと目が覚めましたか?」
マックスが薄い笑みを浮かべていた。
そのわきでミリアがアイスキューブを持っている。
「もうちょっとで背中にコレ、入れるところでしたよ」
さわやかな笑顔で、マックスはオソロシイ計画を語った。
「冗談じゃないよ」
寝ぼけた頭も次第に覚醒していく。
ぐぎぐぎと音を立てて首を振ると、体を伸ばした。
「なんか寝違えた」
「こんなところじゃなくて、大きなお姫様ベッドで寝ればよかったのにね」
「眠れる森の王子様ってところですね。
お姫様のキスで目覚められたのに、残念だ」
マックスと未沙が声を立てて笑う。
「お姫様は早瀬大尉ですか?」
ミリアが真顔で突っ込み、未沙がうろたえた。
「俺には選ぶ権利がないのかよ」
輝がぼやくと、ミリアは絶対にダメです、と、マックスが低い声で応えた。
「とりあえず、明日もあるからもうお開きってことで」
三人はうなずく。
少し淋しくなりながら。
「また来ようね、と気楽に約束できない場所ですがね」
「楽しかった。ほんとにいい経験が出来たわ」
未沙が晴れ晴れとした声で言った。




*2:03




支払いは男二人がすることにした。
未沙も加わると頑張ったが、場所が場所だから、とふたりで押し切った。
「ミリア、大尉と先に出ていて」
マックスが言うと、ふたりはふりかえりながら部屋を後にする。
カプセルに代金を詰め込み、
透明のパイプにセットしてボタンを押すと空気の力で運ばれていくのだが、
マックスは面白そうに見ている。
ひとりでしか利用したことのないのに、輝はちょっと誇らしげにボタンを押した。
空気音を立てて、カプセルは駆けていく。
よし、と扉に手をかけた瞬間、かちゃりと施錠され、備え付けの電話が鳴る。
飛び上がる勢いでふたりは顔を見合わせ、マックスが受話器を取った。
「はい・・・はい。え?」
むくれたマックスは受話器を置いた。
「四人での利用だから、料金は倍額だそうです」
「は!?」
呆れているうちにカプセルが戻ってくる。
しょうがない、と無言で二人は不足分を詰めた。
今度はマックスがボタンを押す。
カプセルが飛びたち、姿が見えなくなると、ロックが解除された。
心情的に面白くないが、理には適っていると、
ふたりは複雑な想いを抱きながら廊下を歩く。
「歌って踊るだけなら、カラオケボックスの方がよっぽど安い」
「でもまあ、楽しかったじゃないですか。
早瀬大尉のかわいい面がいっぱい見られたし」
「そうか?」
突然マックスが真顔になる。
「先輩、さっき、本当に寝ていたんですか?」
輝はうなずく。
「全然わからなかった?」
「なにを?はっきり言えよ、気分悪いな」
「ミリアと早瀬さんが話をしてたのは?」
輝は記憶をたどってみた。
「人の背中に氷入れる算段なんて、ぜんぜん聞こえてないぞ」
マックスは、大きくため息をついた。「もったいない」
そして突然歩幅を広げる。
「おい、待てよ!!」
輝はぐんぐんと距離が開いていくマックスの背中を追いかけた。



*2:24


マックスとミリアは、朝食を買うからと途中で別れた。
輝と未沙は並んで歩く。
「あそこであんなに楽しめるなんて思わなかったわ」
未沙の声が輝には能天気に響いた。
うん、そうだね、と、素直にいいたくない。
「今回は特別。軽く考えていたらとんでもないことになる」
「しつこいわね」
未沙の目つきが険しくなる。
「あなたが心配するようなことがあっても、自分のことは自分でなんとかできます。
それは身をもって体験したんじゃなくて?」
どうしてこのひとは。
輝は不意に未沙の右手首を掴んだ。
未沙は振りほどこうと抗うが、輝は力を込めていく。
彼女が抗議の声をあげるべく口を開いた瞬間、手を放す。
弾みがついてよろけた彼女を、輝がやわらかく引っ張ったので転倒は免れた。
「できないじゃん」
あんたはわかってない。
意地悪な気持ちも添えて、目の前の未沙に輝は笑む。
「好きでもない男と行くところじゃないんだ」
途端、右足の甲に激しい痛みを受ける。
「ふざけないで!余計なお世話よ!!」
ハイヒールの足音がコツンと響く。
「あなたこそ、好きでもない女と行くようなことはしないほうがいいわよ」
淡い色のワンピースに不似合いな勢いで、未沙は歩き出す。
背中がなんだか悲しそうに見えて、思わず彼女を呼び止めた。
そして鋭く振り返った未沙に追いつくと、小さな声で詫びた。
「・・・大尉があんまりにも無防備だから」
「私だってわかってるわ」
まだ彼女の声は尖っている。
輝は小さな声で告げる。
「楽しかった」
未沙は意外そうに彼を見る。
「だけど、もう行かない方がいい。それだけ」
今度は輝が未沙の返事を待たずに歩き出す。
後ろから未沙の声がした。
「今度は違う場所で!」
振り返ると、彼女は駆けてくる。


追いついた未沙と肩を並べ、ふたりは宿舎のある軍のゲートをくぐった。








fin




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非公開コメント

No title

> 初代どストライク世代さん(2回分)

はじめまして、ぶいです!
楽しんでいただけたようで、うれしいです。
王道は名作揃いで恐れ多いので、
私はわき道を走ります。

ミリアが馴染んでいくようすを考えていたら、
こんなふうになりまして(笑)
昭和な人間が書いたのね、と、笑ってください。
そして現在の(つまり輝と同世代)ひとたちなら、
どんな風なんでしょうかね~。
覗いてみたいです。



No title

> misarinさん

ありがとうございまーっす!
新鮮な環境で、新しいことだらけの毎日です。
misarinさんもこの春は大変な毎日だったのですね。
そろそろ「じぶんち」になってきましたか?
面白いもので、始めは「よそんち」なのに、
歳月を重ねていくと「じぶんち」になっていて、
去りがたくなりますよね。
そういう繰り返しが「経験」になるのだなあ、
と最近思いました。

そして某所の会計システムについてですが、
今はきっともっとスマートだと思います。
自動販売機とか、両替機みたいなタイプじゃないかな?
しかし、「足りねーよ」って言われて、
なんか情けない気分になれそうということ、
マクロス艦内の街並みは、
漂っていたモノを集めて再構築されたものなので、
このタイプを採用してみました(笑)

「違う場所で」楽しむふたり、
書けたらいいのですが・・・(^^ゞ
がんばります(汗)



No title

> ゆばさん

マックスがミリア絡みのことで、
取り乱すところを見てみたいなー、と思うの!
それもなんか、どーでもいいような、些細なことで。
で、がんばったのだけど、このレベルでした(^_^;)

「何言ってんだ!」って彼氏ヅラして言えるほど仲良くなくて、
「面白そうじゃん、いいんじゃない?」
って言えるほど他人じゃなくて、
できてるんだか、違うんだか、はっきりしてよ!!
と、周りも見ているだろうね~。
そんな時期のふたりを堪能していただけて、うれしいでーす♪



No title

> やまちんさん

自覚があるんだか、ないんだか、っていう
微妙なかんじが好きなのですよ(≧◇≦)
素直になれていれば、
二部はあんなにならなかったでしょうから、
もうちょっと張り合ってもらいますね(笑)

No title

> VF-4さん

いや、まだまだスキンシップは難しいと思いますよー。
他愛のない話をしながら歩いていってほしいです。

No title

> ひーちゃんさん

おそくだなんて!そんなことまったくありませんよっ!!
読んでいただけるだけでもうれしいのに、
感想いただけて感激です。

モヤモヤ感よりも、ドタバタと落ち着かない話でした(笑)
ひとつの恋を終わらせたばかりの輝と、
始まったばかりの恋のときめきを抱く未沙、
そしてふたりで歩き始めたばかりのマックスとミリア。
そんな四人を想像しながら、
話を組み立てていくのは楽しかったです♪
現実は疲れて辛いことも多いだろうけど、
ひとときでも笑いあえる時間があったらいいな。
ひーちゃんさんに楽しんでいただけて、本望ですよっ(^^)v

チャイルドプレイは、存在は知っているのですが、
ホラー苦手なのですよ(*ノωノ)
土井さんが花嫁役。
もうそれだけでいろんなスイッチが入っちゃいますよね、私達(笑)
(ふふふ、一緒にしちゃった♪)

プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

戴いたコメントは、すべて非表示にしています。

SSの目次を「SS menu」としてリンクに張り付けました。
ご活用ください♪

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