SS <song for you> 7

夏本番ですね!
更新が少ない今月、挽回できるといいな~、とUPです。

ちなみに全10回の予定です。




* 戴いたコメントにお返事しました(7/25)(’15/2/27)





<7>





輝は、落ち着いた気持ちで、その朝を迎えた。
支度のため、先に出る未沙と軽めの朝食を取り、見送った。
会場で合流するまでの時間、何もすることもなくソファに沈み込み、
昨夜の出来事を思い返す。


結婚式、という言葉が、輝の記憶の箱から、あの日のミンメイを解き放った。
それは後ろめたさと、少しの甘さをはらんでいて、疲れがちな輝の心をつつむ。
未沙に不満があるわけでも、心が離れたわけでもない。
準備を進めるにつれ、
少女のような無邪気な顔を見せてくれる彼女に対する愛しさは増していく。
・・・なのになぜ?
式の日は近づく。
ミンメイから届いた返事は『欠席』、余白には『やったね!おめでとう』と書かれていた。

その日、輝が帰宅すると、テーブルの上に一冊の詩集が置かれていた。
いつもなら未沙のものを無断で触ることのない輝だが、
ためしに読んでみたら?と言われたこともあって、手に取り、頁を繰った。
・・・俺にはわからない世界だ。
苦笑いをしながら、音を立てて本を閉じ、テーブルに戻したが、
バランスが崩れて落ちてしまう。
カバーがはずれた本を直そうと手に取ると、裏表紙の下の方にサインがあった。
「フリューリング?」
思わずつぶやいた聞きなれない名前に首をかしげながら、
カバーもかけ直して丁寧に置いた。
遅れて帰宅した未沙がすぐに片づけたようで、
その後、本を目にすることもなく、輝もすっかり忘れていた。
そして昨夜。
友達がどうしたこうした、と言った他愛のない話の中で、思い出した。
「あ、そうだ!フリューリングってだれ?」
笑顔だった未沙の瞳に、ゆっくりと涙が浮かぶ。
輝はフリューリングのファーストネームが、ライバーであることを、初めて知った。


「すっかり忘れていたわ。
本の貸し借りはあったし、戴いたものもあったけど、
みんな東京の家だと思っていたから、なんだかうれしい。
マクロスからアラスカに乗り込んだ時に、
母の形見や・・・もちろんライバーのものもいくつか持って行ってたのだけど、
全部焼けてしまったもの」
涙をぬぐった未沙は目を伏せ、丁寧に本の表紙をなでる。
そのしぐさが、輝の落ち着きを奪う。
「ご家族もお亡くなりになったし、彼のことを覚えているのは、私と総司令だけね、きっと。
たったそれだけなんて・・・儚いわね」
「それでも未沙にとって、彼は特別なんだろ?」
こんな意地悪く言ってどうするのだろう?
彼のために涙を落とした未沙に、苛立ってしまう。
感情のやり場がなく、未沙から目をそらすように視線を落とす。

未沙は驚いて顔を上げた。
「特別って・・・あなたに会う、ずっと前の話じゃない。
そんな風に言わないで」
最後は震えた声で、未沙は輝の手を握った。
そのぬくもりを、今の輝は受け入れられない。
ゆっくりとふりほどき、立ち上がろうとする。
「輝!まって」
ひきとめるように、未沙は輝の手を掴む。
「なにか、誤解していない?」
「・・・なにを?」
低く小さな声で応える。
「ライバーとあなたは、私の中でまったく違うところにいるの」
必死に訴える未沙の瞳を、輝は冷ややかに見つめる。
「これまでの私を、はぐくんでくれたなかにライバーはいる。
初めて好きになったひとだから、特別な気持ちはあるわ。
でも彼のことは、全部過去形でしか語れない。
思い出の中にしかいないの。
・・・だけど、あなたは違う」
未沙は立ち上がり、輝と目線をあわせる。
「明日は結婚式だし、朝ごはんはなににしようとか。
あなたとのことは、すべてが未来なの」
過去と、未来。
輝の中でも、面影が鮮やかに蘇る。

あのときのふたり。
泣き顔のミンメイ。
しかし綺麗な思い出は、ろうそくの炎のようにゆるく揺らめく。

「私は、あなたと生きていくの。
これからもずっと、一緒にいたい」
はっきりと気持ちを伝える未沙を、輝は見つめ返す。
「・・・わかってくれた?」
言い逃れでもごまかしでもない、まっすぐな未沙の気持ちは、彼女の瞳に強く宿る。
心を決めたら揺らがない、彼女の強さ。
自分に欠けているものを、未沙は持っている。
「みっともないな・・・俺」
呆れたように小さく笑う輝を、未沙は抱きしめる。
「ヤキモチやいてくれて、困ったけど、うれしかったわよ。
あなた、私のこと好きなの?」
未沙は笑いながら、輝をのぞき込んだ。
彼女にしては大胆な、はっきりとした言葉がでて、輝は言葉に詰まる。
彼の表情を見た未沙は、照れて顔をそむけたが、名を呼ばれ、ゆっくりと視線を向ける。
輝は横からすくいあげるように、軽くくちびるをあわせた。
彼女からこぼれた吐息のあたたかさが、現実であることを教えてくれ、
輝の描いた綺麗なまぼろしは、儚くとけていく。
「バカなこと、聞くなよ」
言葉にしない答えを愉しむように、ふたりはキスを重ねた。





ケータイのアラームは、出かける時間を告げ、まどろみから呼び戻された輝は立ち上がる。
大きく体を伸ばすと、玄関のカギをつかみ、ドアを開けた。









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> ゆばさん

松浦、気にかけてくださって、ありがとうございます~♪
彼がノリでいろんな企画を打っても、
当の本人たちに拒否られてる、そんなかんじで、
期待せずに待っててくださいね。

なるべく早く、できれば続けてUPできるようがんばりまーす(^_^)/

No title

> びえりさん

1月に別れて、半年経つか経たぬかのうちに、
感情が昇華できるとは私は考えられなかったので、
このような形で表現しました。
その後、彼の彼女に対する感情は、
みなさまと似たところにたどりつくのではと思います。

そして<song for you>は、
ご指摘のドラマのような群像劇を目指して作った話なので、
気づいていただけて、大変うれしいです。
ありがとうございます。


プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

戴いたコメントは、すべて非表示にしています。

SSの目次を「SS menu」としてリンクに張り付けました。
ご活用ください♪

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