SS <chasing you> 前編

ぶいです、九月です!

ようやく重い腰があがりました。
間が空くと、ふんぎりをつけるのにパワーが必要ですね。

今回は一回の量が長めですが、前後編でお届けします。
のんびりとおつきあいいただけるとうれしいです。



*戴いたコメントにお返事しました。(9/2)(9/3)(9/7)




chasing you   <前編>







ここ最近、松浦の虫の居所は悪かった。

輝と未沙の結婚式の途中で入った電話は、小器用な彼の頭痛の種になっていた。
メガロード艦内の都市建設を請け負っているゼネコンが、
大きくはないが小さくもない事故を起こし、その原因究明やら、復旧工事やらが
予想より手間取ることがわかっていたにも関わらず、対応が後手後手に回り、
移民受け入れ時期の遅れにつながるほど事態が悪化してから軍に報告が入った。
他社の参入を嫌がり、自社のプライドにかかわると巧妙に隠されていた
この事故の処理に気を取られているうちに、彼は未沙に出し抜かれた。
彼女は、かねてから懸案だったゼントラーディ人の医療設備について
充分な根回しをし、あとは松浦の承諾を取り付ければ動き出すまでに整え、
しかも拒むことができないような細工まで施して突き付けてきた。
真っ向勝負しか挑んでこないと踏んでいた未沙が、
思わぬ政治家ぶりを発揮したことに彼は舌を巻いたが、
この件に関しては、自分自身の感情の問題もあるので、
無言でサインだけして書類を渡した。


その未沙も、松浦の報告を受けて、頭を抱える。
移民の受け入れ開始期間を延ばすことは、
彼らの生活する場の確保や、もちろん就業も遅れるので、
生活費の保障も問題になってくる。
それは誘致した企業に対してもおなじで、延ばした分だけ損害が生じるのだ。
医療設備で無理をしたので、こちら側の懐具合は厳しく、
補償を当事者のゼネコンにおっかぶせてやろうとしても、
無理を通したが故に手抜き工事でもされたら、命取りになるのが宇宙空間の怖いところで、
そのあたりの事情もあり、あまり強く出ることができない。
慌ただしさを理由に連携しなかったお互いの意地とプライドの問題が、
このふたりの間にも横たわり、少々気まずい時間を過ごしている。


一方、輝は新しいスカル大隊の編成と訓練に明け暮れている。
VF-4の性能は大気圏よりも宇宙での動きが優れていて、
一刻も早く試してみたいパイロットたちははやる気持ちを隠せない。
そしてゼントラ人のケンカ程度での出動要請はあるが、これといった大きな戦闘もなく、
チームワークを作り上げるには絶好の状態で、
仕事を離れても自然と集まっては盛り上がり、いい雰囲気を出している。
もちろんその輪の中には輝も加わっていて、
忙しさは未沙や松浦と同じでも頭を抱えるようなこともなく、
新しい旅立ちの準備を整えていた。



そして『愛おぼえていますか』の歌い手を決める最終審査の日がやってくる。
ミンメイは一次審査を一位で通過し、選ばれた10組の最後に歌うことが決まった。
審査員の中には、移民艦メガロードの艦長として未沙もいた。
そんなことは松浦に振ってやろうと思ったが、
当の本人がこの企画の責任者なのでそれも叶わず、しぶしぶの参加になった。

輝はテレビでのんびり見ようと思っていたが、隊員たちから誘われ、
公開オーディションの会場に向かった。
非番の仲間たちと無事に合流し、座席を見つけて腰を落ち着けると、
タイミングを計ったかのようにケータイが鳴る。
着信画面を見て、彼は小首を傾げながら、仲間達からすこし離れた。
「・・・どうしたの?今、電話なんてかけてていいの?」
小声で応えると、向こうからはかなり焦っている女性の声が聞こえる。
「そんなことより、輝、今、会場にいるんでしょう?
いますぐ控室に来て。私はここから出られないの」
久しぶりの無茶ぶりにたじろぐが、彼女が自分を呼んでくれたことがうれしい。
「そんなとこ、はいれるわけないだろ?」
「大丈夫、なんとかなるわよ!」
「だからぁ」
「・・・お願い、あなたにしかこんなこと話せる人がいないの」
肝心の用件がさっぱりわからないが、こんな風に彼女に頼まれると、
NOが言えない自分が情けない。
わかった、と、一旦通話を切る。

「悪い!ちょっと用事出来た」
「なにかありましたか?」
一瞬で仕事の顔に戻る仲間たちに、私用だと説明して、その場を離れる。
「来いって言われても、どこにだよ!?」
独り言の声が思ったよりも大きくて、すれ違う人が振り返る。
バツが悪く、頭を掻きながら、ともかく関係者通用口を探すことにした。


権威を振りかざすことは苦手な輝は、
なんとかたどり着いた通用口で立ち尽くしてしまう。
「許可証がない方を、お通しすることは出来ません」
わかりきったことを聞くな、と言わんばかりの横柄な係員の対応に、
むかっ腹もたつが、開演時間が迫ってきているので、
早急に自力突破せねばならず、万事休す、と、
ケータイのアドレス帳をスクロールさせて、松浦の番号を見つけた。

「この忙しい時に、愛妻に忘れ物でも届けに来たのか?」
珍しく駆けてきた松浦が、係員に一言二言かける。
輝は許可証を渡され、先ほど対応した係員に見せつけるように振ってから、首に下げる。
「未沙じゃないです」
「は?」
「・・・ミンメイ」
後ろめたさを感じながら、彼女の名を口にした。
「あんた、式、挙げたばっかりだろ!?それってどうなの!!」
切れ長の目を目いっぱい見開き、呆れた彼の声は大きくて、やはり周囲の目を集めた。
輝は声を潜めて言う。
「なんか困ってるみたいで。ともかく早く来いって」
途端、松浦は目線を泳がせる。
どうかしましたか?と輝が訊ねるが、なんでもない、と切り替えされた。
ドアがいくつも並んでいる廊下に出ると、
その辺だから勝手に探せ、と、顎で示し、彼は素早くその場を離れた。
後ろ姿を見送った輝は、並んだドアに目をやる。
知っているバンドや歌手の名が貼られていて、
自分が今、ミンメイの住む世界に足を踏み入れてるのだと思うとテンションが上がるが、
ひとつずつ確認しながら歩く。
そしてようやく見つけた扉をノックした。


あら?
ここにいるはずがない、見慣れた後ろ姿を未沙は見つける。
キョロキョロとあたりを見回しながら、
一つのドアの前に立ち止まってノックをし、中に入っていく。
なぜここにいるのか、それが誰の部屋なのか、確認するために足早に向かうも、
スタッフに呼び止められた。
「早瀬艦長、もうお時間ですから」
後ろ髪引かれながら、未沙はその場を後にする。
その扉の向こうに誰がいるのか、胸騒ぎは隠せない。
肩にかかる長い髪をかきあげるも、気持ちは落ち着かない。
会場に足を踏み入れ、開演を待ちわびる人々の顔を見て、感情を抑える。
今は任務なの。
自分に言い聞かせて、平静を装う。



壁の一面が鏡になっている部屋で、
ミンメイはいつでもステージに立てるよう準備万端で待ち構えていたが、
一人で入ってきた輝を見るや否や、綺麗な眉を寄せて睨む。
「・・・逃げられたわ」
「いきなりなんだよ!」
事情も分からず怖い顔を向けられた輝も、
さっきまでの浮かれた気分は吹き飛ばされ、不機嫌な色を乗せる。
ミンメイは鏡の前の椅子に座り直し、輝に向き合う。
「あなたなら連れてきてくれると思ったのに」
「だからだれを!?
さっきっから俺、全然意味わかんないんだけど!」
ミンメイの頼みとはいえ、現れてすぐのこの仕打ちに、輝も本気で腹を立て始めている。
かまう様子もなく、ミンメイは手元にあった携帯音楽プレーヤーを操作し、輝に渡す。
「これ・・・」
男性の声で歌われているのは『愛おぼえていますか』で、輝には聞き覚えがあった。
「DECADEってバンドなんだけど、輝、この声、知ってるでしょう?」
「声?」
輝の頭はフル回転で該当者を探すが、
彼の思い当たる人物とミンメイとの接点が見つけられない。
ちょっと貸して、とミンメイは再度プレーヤーを操作すると、
似たように男性の声のバージョンを出した。
「声、変わったの、わかる?」
「・・・ああ。
すごく似てるけど、別人だ」
「差し替えたのよ、ボーカルを」
忌々しげに言うミンメイの姿が意外で、しかし、彼女が何を言おうとしているのか、
それに自分がどうして必要なのかわからない輝は、首を傾げ続ける。
「だからさ、わかるように説明してくれない?」
「ごめんね、私、すぐにステージに行かなきゃ。顔見世終わったらすぐ戻るわ」
問われたことに応えず、一度目を伏せたミンメイは、振り切るように輝を見上げる。
「お願い。
このバンドは7番目の演奏なの。それまでにレイを探してきて。
絶対歌わせて!」
「おちついて、ミンメイ。だからレイって誰!?」
「松浦中佐よ」
は?
輝はぽかんとしてしまう。
「松浦玲っていうのよ、彼は」
それは知ってるけど、どうして君が彼を?
輝が口を開く前に、ミンメイは呼ばれて出ていった。


無意味と知りつつリダイヤルを繰り返すが、松浦は出ない。
呼んで来いと言われて、呼ばないことには許されない状態であることは、輝でもわかる。
未沙を介して、と思いついたが、すでに着席しているようで、出ることはない。
緊急呼び出しをかけるにも、私用なのではばかられ、ため息をついて鏡を眺める。
・・・なんでこんなこと、してるんだろ?
拗ねている自分の姿は、情けなさがいつもより増えている気がする。
そして、ふと思い当たるふしがあって、輝は会場にいる部下のひとりに電話をかけた。

ミンメイの控室を出て、バックヤードを小走りに回ってみる。
私服姿の輝に首をかしげる軍関係者もいたが、審査員席に未沙がいるせいか、
とりたてて不思議がられなかった。
目が合うと敬礼を交し、松浦中佐を見つけたら連絡をくれるよう頼み、先を急ぐ。
そしてさほど時間がかからぬうちに、会場客席にいた部下から連絡が入り、
輝は、目を離さないよう厳命して、駆け出した。


人ごみにまぎれてステージを見る彼の背後に近づく。
気配を感じ取った松浦は、ゆっくり振り返った。
「見つかったか」
「逃げても無駄ですよ。仲間がいるもんで」
松浦は舌打ちをする。
「・・俺、おまえの上官なんだけど」
「艦長の命令だと伝えてありますから」
「ちぇっ、きったねー!公私混同もいいとこだ」
舌打ちをする松浦に、輝は折りたたむように伝える。
「今ここで本題切りだしてもいいんですが、どうします?
おとなしく移動してくれますか?」
「しょうがねえな」
引かない輝の意志を確認した松浦は、ため息をついた。












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> ゆばさん

どーんと全面に出てきちゃいました~(^_^;)
こんな彼をかわいがってくれて、いつもありがとうです!

後編、肩透かしくらわすかもしれないので(大汗)
半裸くらいで待機しててくださいね♪
本当は一回で全部UPしたかったので、
(さすがに長すぎたわ~)
なるべく早く後編も出しますよ~(^_^)/

> VF-4さん

ミンメイがかかわると、顔は笑っていても心の中には竜巻が、そんな感じでしょうね~。
「いいのよ、たいしたことないわ」って言うには、まだまだ未沙も若すぎる(笑)
ましてや、新婚さんだもの~( *´艸`) 
と、おばちゃんは貫禄かましてみました(苦笑)

なるべく早く、次をUPしますね。


> VF-4さん

VF-4さんの熱い思い、伝わりましたよ~!!

未沙とミンメイ、性格が逆というよりは、年齢差と環境の違いだと思います。
ミンメイは人に見られる、イメージが大切な仕事なので、
抑えてる感情は、かなりのものでしょう。
そう考えると、TV2部でステージの上で歌えなくなる場面は、
彼女が相当追い詰められていたと感じられて、私は痛々しく思いました。
そんなミンメイが唯一(なのか!?)
自然体でいられる相手が、輝なのでしょうね。
それで奔放にみえるのかもしれません。
・・・なんてことも、大人になってからわかったことですが(笑)

未沙は普通の女の子です。
だから彼の一挙一動にハラハライライラするし、気にもなる。
旦那に興味なくなったら、そんなことすら思いませんから(苦笑)
いいんですよ、いっぱいヤキモチ焼いてた方が!!

そんなところが出せたらいいなあ、と思っています。




プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

戴いたコメントは、すべて非表示にしています。

SSの目次を「SS menu」としてリンクに張り付けました。
ご活用ください♪

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