SS <chasing you> 後編

コメント欄で「今週中に!」って言ったのに、日曜になっちゃいました(汗)
遅れてすみません。


さて、続きです。

松浦玲は私が作り出した人物ですが、「あて書き」をしています。
モデル、とまではいかないけど、イメージですね。
それが誰であるのか、野暮なことはいいませんが(h氏ではないですよ!)
読んでくださっているかたが、
どんなイメージを描いてくださっているのか、興味あります♪
この『流れ』の話が、私の描いている「終わり」にたどり着いたときに
発表しちゃおうかな~(笑)
それも野暮な気がするけど・・・

能書きが長くなりましたが、
ゆっくり楽しんでいただけると、うれしいです。




* 戴いたコメントにお返事しました。(9/10)(9/11)



  chasing you <後編>







控室のドアを開けると、すでにミンメイが待っていた。
隙を見つけて人にまぎれようとしていた松浦も、
さすがに戦闘職の輝からは逃げ切れず、しぶしぶとイスを引いて腰を下ろす。
「さ、ミンメイ、俺にもわかるように説明してよ」
輝はドアに寄りかかりながら、腕組みをする。
ミンメイは松浦を鋭く見つめ、切り出した。
「どうして歌わないの?」
「俺が?一体なにを?歌うのはおまえだろ」
「ふざけないでよ!
本当はDECADEだって、あんな順位じゃないわ」
ミンメイは視線を弛めずに続ける。
「応募したのに、なんでレイは出ないの?」
「応募ったって、サクラだし。
枯れ木も山の賑わい、っていうの?
応募者いなかったらマズいからさ」
第一、俺、主催者だし、と、
ミンメイの本気をあしらうように首の後ろを掻きながら、彼は応える。

輝は状況を整理した。
この二人が前々から知り合いだったらしいのは、今は置いておく。
アポロで渡されたプレーヤーに入っていた曲は、やはり彼が歌っていたということだ。
「松浦さん、音痴だって言ってたけど」
流れが変わる気配に松浦は嬉々として、椅子から半身をよじって振り返り、輝に笑む。
「そ、音痴なの」
「レイ、私はあなたの歌が聴きたいの。
それに、私が真剣にこの曲に取り組んできたのを知ってるはずよ!
あんなにたくさんの人の歌の中で、
勝ち負けとかどうでもいいって思えたのは、あなただけだったわ。
いつもいつも、どうして寸前で逃げるの?
逃げるんだったら、最初からしなければいいじゃない!
いいところだけ見せつけて、最後まで行かないなんて・・・莫迦にしないでよっ!!」
声を荒げるミンメイに、あー、こわっ、と松浦は肩をあげる。
はぐらかされるばかりで、苛立ちが頂点に達したミンメイは、彼の頬に右手を叩き付けた。
輝は息を呑む。
そして打たれた頬に紅く跡をつけたまま、彼は薄く嗤って立ち上がり、
ミンメイの腕を掴むと、きつく唇を重ねた。
その場を動くことも、視線を外すこともできない輝の目の前で、激しく、キスは深まっていく。
ミンメイは松浦のされるままになっていたが、なんとか身を離した。
何事もなかったかのような顔をして松浦は、ついた口紅を手の甲で無造作にぬぐう。
我に返った輝につかみかかられるが、腕一本で振り払う。
「キスが効くのは、ゼントラ人だけじゃねえな」
皮肉たっぷりに輝の肩を叩いて、そのまま体を押す。
不意を突かれた輝がよろけた隙に、扉を開けて出ていった。


ミンメイは下を向き、唇をかみしめていた。
そばまで寄るも、彼女に触れるのをためらう。
「大丈夫?このあと出番なんだろ?」
覗きこむと、彼女は涙をこらえるのに懸命で、険しい顔つきをしていた。
クルクル笑ういつものミンメイとは違う。
そんな顔もするんだ、と、すこしだけときめいたことも否めない。
輝は鏡の前の台に左手をついた。
角に指輪があたり、小さいながらも硬い音を立て、はっとする。
その音で、ミンメイは顔をあげる。
なぜか輝は一歩下がった。
キスの激しさを思い出させるように、彼女の口紅はよじれ、大きくはみ出していた。
「やーだぁ!お化粧直さなきゃ。
輝、呼び出してごめんね。もう大丈夫よ」
鏡を覗く彼女は、いつも輝を翻弄するミンメイ。
ほっとしたが、やはり何かが違う。
「ほんとに大丈夫?水かなんか、飲むなら・・・」
「大丈夫だってば。
今日は来てくれてありがとう。いっぱい迷惑かけちゃって・・・」
強がりの限界が来たのか、笑顔が崩れ、涙がこぼれ落ちる。
照れ隠しのつもりか、
あはっ、へんなのーっ、とミンメイは明るい声で笑い飛ばそうとしたが、こらえきれずに俯く。
なんとかしてあげたい。
堪え切れない想いが輝を動かした瞬間、ミンメイはつぶやいた。
「・・・レイのばか」
彼女に触れる直前のことだった。
その一言で固まった輝は、少し不自然な、ぎこちないかんじで椅子に腰を下ろした。

「いまさらなんだけどさ」
輝はミンメイの方を見ずに話し出す。
「結婚式、ありがとう。
最高に素敵な思い出ができたよ」
ミンメイもティッシュで涙をおさえながら、鏡に向かって顔をあげる。
「あのときも土壇場でレイは逃げたわ。
自分から持ってきた話なのに」
「松浦さんが式を仕切ってくれたのは聞いてたけど、それは初耳だ」
意外な言葉に輝は目を丸くする。
「カイフンと三人で音合わせもしていたのに、直前で電話が来ちゃって」
「そうなのか。
そのあとから大騒ぎになったからなあ・・・」
無理もないよ、と輝が言うと、ミンメイも溜飲を下げた。
そして壁の時計を見、ごめんね、と言いながらメイクを直し始める
「男の人の前だけど、輝だから、いっか」
「どういう意味だよ!」
「だからぁ、輝はおともだちなの」
懐かしい言葉を聞いて、軽く笑みが零れた。
「はいはい、おともだちね」
「私ね、デビューしてから、お友達がいないの」
ミンメイは鏡に向かい、手を動かしながら続けた。
「その前からの友達もみんな、遠くなっちゃって。
困った時に浮かんだのが、また輝の顔なのよ。笑っちゃうでしょう?」
「・・それでこの騒ぎなわけね」
「奥さん、審査員席にいたから、どうせ暇なんでしょ」
「って、わかったように!」
「あら~?違うのかしら。
そうそう、未沙さん、艦長になられるのよね。
いつもきれいだけど、今日はほんっとに素敵だったわ。
あの服が今度の制服?」
輝は、意を決した。
「ミンメイ」
彼女は色とりどりのパレットを閉じながら、生返事をする。
「松浦さんのこと、好きなの?」
ミンメイの手が止まる。
そして横に座る輝と鏡越しで目が合う。
「・・・わかんない」
「今日みたいなミンメイ、俺、初めて見たよ」
「私だってこんなになるなんて、思ってなかったもの」
輝は少しだけ淋しく感じながら、軽く相槌を打ち、再び問う。
「なんで俺を呼んだの?」
鏡の中のミンメイは淡く笑みを浮かべた。
「レイが言ってたの。
俺が歌ったのに気付いたのは、お前と隊長だけだって。
輝、耳、いいのね」
「飛ぶたびにエンジン音とか、機体がたてる音を聞き分けるからね。
音で異常がわかるんだ。
パイロットなら、大抵そうだよ」
なるほどね、と感心しながら彼女は振り返る。
「みっともないところ見せちゃって、ごめんね」
そして今度は真正面から、ふわりと微笑む。
「そして、ありがとう。
せいいっぱい歌ってくるから、見ててくれる?」
ああ、と輝はうなずくと、控室を後にして、仲間たちの待つ客席に向かった。



ステージの上では、本選の演奏が始まった。
幅広い応募者の中から選ばれているので、10位とは言え、レベルは高い。
演奏形態も自由なので、
同じ曲でもここまで変わるのかと驚くほどのアレンジが加わっているものもあり、
聞き手の好みに左右される部分も大きい。
そのせいか、観客もそれぞれの違いを楽しみながら、同じ曲を飽きることなく聞く。
長く誰にでも愛され、歌い継がれていくように、その点を加味しての審査なので、
未沙もいつもと違う神経を使う。
誰が一番適任なのか、その一点に集中していく。

このかんじ、前に聞いたことがある。
手元の資料には、『DECADE』とあった。
アポロで松浦に渡された、あのときの、と思い当たったが、
今日はあの日よりも印象が薄く、演奏技術の巧さだけが残った。
・・・ミンメイまであと二人、ね。
彼女を思い浮かべると、先刻見かけた後ろ姿がよぎる。
何故、あなたがあんなところに?
暗い気持ちに包まれそうになるも、必死で振り払う。
今は、そんなときじゃないのよ。
再び自分に言い聞かせて、曲を聴くことに専念する。


控室を出た輝は、松浦に呼び止められた。
空いている部屋に入ると、鍵がかけられる。
「なんですか?」
気持ちの整理ができないまま、当事者と向き合うことになった輝は、仏頂面になる。
「めんどくせえところ見せてしまって、悪かったな」
松浦は先ほどとは打って変わり、やわらかい態度で輝に向き合った。
「正直、驚きましたけど・・・」
自分がわかっていることをつなぎ合わせてみても、
まだまだ意味がわからない二人の言動に振り回されてくたびれた輝は、次の言葉を待つ。
「あいつ、落ち着いたか?」
「ええ。支度してました」
つえーな、と乾いた笑いをとばして、松浦は椅子に腰かけ、輝にも勧める。
彼の正面から少しずらした位置で、輝も腰を下ろす。
「俺、まだよくわかんないんですが・・・ミンメイと親しいんですか?」
「音楽仲間ってところだ」
松浦は少し遠い目をする。
ただの仲間にキスまでするのかよ、と思ったが、
それを口には出せない雰囲気が漂っていた。
そしてあのキスはどこか冷たくて、感情があるものとも思えなかった。
「松浦さんも歌う人?」
「俺はただの何でも屋だ。ある程度のことはできるが、それ以上にもそれ以下にもならん」
彼は嗤う。
輝は、彼の様子に戸惑いながらも、本題を切りだす。
「なんでこんなめんどくさいこと、したんですか?」
「差し替えのことか。
言っただろう、枯れ木も山の賑わいって」
「だったら、どうしてアポロで俺たちに?」
「そっちにはふたつ、理由がある。
あのとき言ったように、早瀬さんにお祝い。
彼女が心血注いで取り組んでいたのは、俺も見ていたからね。
職権乱用だけど、早く知らせてやりたかった。
・・・もうひとつは、俺の声だって、誰か気づくかなって」
松浦の瞳が翳る。
「聴いたやつ全員がわかっても困る。
そして誰もわからなかったら、もっと困る」
「それって・・・」
「この話、誰にもするなよ。
もちろんミンメイにも、早瀬さんにも、な」
あんまりかっこいい話じゃねえから、と彼は自嘲しながら続ける。
「探してるんだよ」
彼は言葉を切り、輝をまっすぐに見つめた。
「あれを聞けば、必ず出てくるはずなんだ。
俺の声だって、絶対にわかるヤツだから」
自分に話を聞いてほしいのか、それとも流してほしいのか、
判断がつかずに次の言葉を待つ。
松浦は、先に視線を落とした。
「生きているなら、な・・・」
思惑は外れてしまったらしい。
彼の痛みを、輝は感じていた。
この時代を生き抜いた人々は、多かれ少なかれ似た境遇で、
大戦前に両親を亡くしたものの、
ともに戦い、生き抜いた未沙という配偶者に恵まれた輝は、
どうしたらいいのか、いつも惑う。
「辛気臭くなるから、嫌なんだ、この話は」
彼はつぶやいた。
見つかるといいですね、など、軽々しく言葉がかけられない。
地球がどんなにダメージを受けたのか、輝は実際に目の当たりにしている。
たしかに各地のシェルターで生き残った人々もいたが、
それはほんの一握りの、強い幸運の持ち主だ。
「あの年の2月15日付で、東京勤務の内示が出ていた」
それだけ言うと膝の上に組んだ手に、頭を乗せる。
顔は見えなくなったが、細かく震える背中が、すべてを物語っていた。
輝は視線を外し、彼の横で佇む。


ステージにあがったミンメイは、先日の式での彼女とまったく違い、
たくさんのステージを経てきた彼女がまだ見せたことのない、大人の女の顔をしていた。
他の応募者のように歌う前のMCもなく、ライトが彼女が照らすと腕をすっと振り上げ、
曲は始まった。
たったそれだけの動作で、会場の空気が変わった。
彼女の口から、言葉が零れ、意味を孕んで広がっていく。
誰かに問いかけるような、切実な想いが舞う。


そして未沙の心は、不安に揺らぐ。
否定しながらも完全に打ち消すことができない、疑惑と呼ぶには小さいけれど、
なにもなかったことには出来ない、心に刺さったちいさな棘。
何故あそこに輝がいたの?
ステージのミンメイを凝視する。
あなたは、今、誰に・・・誰に向けて歌ってるの?
冷静さを装いながらも、ペンを握る手が小さく震えるのを止められない。
未沙はそっとペンを置き、デスクの下で自分の手を握った。


頃合いを見計らった輝は、ケータイのワンセグを入れた。
聞き覚えのある、澄んだ声が響く。
「・・・ミンメイだ」
いつに増して、誰かに問いかけるような彼女の歌声が、
音量を上げすぎて時々割れながらも部屋に満ちていく。
松浦も顔をあげた。


ミンメイは、圧倒的な支持を得て、その座を掴んだ。


全てを終え、迎えの車に乗り込もうとした未沙は、輝の部下たちに声をかけられる。
「艦長、さきほど松浦中佐を探してられましたが、もうお会いになられましたか?」
心当たりのないことに、一度はかがめた身を起こす。
お祭り気分で盛り上がっていた彼らは、未沙の顔色が変わったことに驚き、姿勢を正した。
「それはどういうことかしら?」
「会場内にいるはずの松浦中佐を見つけ出せと、
艦長命令だと隊長がおっしゃったものですから」
その場もざわめきだし、これ以上の追及は騒ぎになる気配がした未沙は、
思い出したふりをして、彼らに礼を述べておさめた。
安心した彼らは、敬礼をして未沙の乗る車を見送る。


走り出した車の窓に、未沙は額をつける。
話をしないことには、なにも始まらないわ。
焦る気持ちを静めるように、街の明かりが流れるのを眺める。
そして、左手の薬指にはめた指輪に触れた。







fin







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非公開コメント

> ゆばさん

お・・大人だなんてっ(汗)
アクの強い二人が居合わせると、こーなってしまうという(^^ゞ
輝、霞んじゃうくらい、個性強い二人です。

今までの流れで、大きな節目をひとつ越えまして(結婚式ね)
次の節目を目指すべく進んでいますが、
これがまた大きな山で、越えられるかとゼイゼイしてます。
また少し時間がかかりそうですが、
ちょっとづつでも進めていきますので、待っててくださいね♪


> ぱよぷーさん

いやいやいや、きっと肩透かし食らうような続きなので、
ふーん、程度の期待度でお願いします。
なかなか難産でして、先に進めませんので、
のんびりしていてくださいね<m(__)m>

プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

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