SS <trouble> 後編

後編、早々にUPします。

楽しんでいただけたら、うれしいです。





* 戴いたコメント、拍手コメントにお返事しました(10/9)(10/23)(10/27)



    trouble    後編






「何階?」
「えっと・・・6階、おねがいします」
ミンメイは応えた。
定員は両手の指の数ほどの、ちいさなエレベーターで、
正面を向くべきか、ミンメイを見るべきか、未沙は悩んだ。
「この前は、審査員席にいらっしゃいましたね」
ミンメイは、人懐っこい声で話しかける。
「ええ。
このたびはおめでとうございました。
そして結婚式でも、素敵な歌をありがとう」
「綺麗でしたね、未沙さん」
初めてミンメイに、直にファーストネームで呼ばれ、未沙は戸惑う。
「あ、一条さん、って呼ぶと、なんか輝みたいで」
ミンメイはちいさく笑う。
数字はひとつひとつ灯りをともしながら駆け上がって、「6」のボタンに近づく。
そのボタンがともるまでの数秒前だった。
エレベーターは大きな音を立て、中の灯りが消える。
二人が声をあげた瞬間、非常灯がついた。
「…停電かしら?」
未沙はコントロールパネルの非常連絡用のボタンを押してみたが、まったく反応がない。
「さっき雷が鳴ってましたね」
ミンメイも心細そうにケータイをいじりだした。
「まさか、どこかからの攻撃とかじゃ…」
「それは私もわからないわ」
苛立ちを少しだけ見せながら、未沙もケータイを取り出した。
携帯が不通なら、中継局の停電など考えられるが、
軍用は無線機能もついているはずなのに、つながらない。
「…回線が混んでいるのかしら?」
軍用電話の呼び出しをかけたまま、大きく息をついて、壁に寄りかかる。
ミンメイも反対側の壁に寄りかかり、髪をハンカチで押さえ始めたが、
かなり濡れていたらしく、役目をなさなくなり始めた。
未沙は自分のハンカチを取り出す。
「これでよければ使って」
ミンメイは物おじせず、礼を述べて受け取る。
「未沙さんはお買い物?」
「夏物、見てみようかな、って」
「忙しいんでしょう」
何の気なく言った彼女の一言が、未沙の神経に触れた。
誰に聞いたの?
それを口に出したら、なにかが崩れる気がして、必死にこらえた。


                    ☆


ひととおり身づくろいをしたミンメイは、ふたたび礼を述べ、
洗ってお返しします、と丁寧に畳んで、未沙のハンカチもしまう。
その仕草に、一瞬未沙は見とれた。
「捨てちゃっていいわ」
「いいえ、お返しします。
旅立ちに間に合うように」
ミンメイは明るく微笑み、次の瞬間、淋しげに目を伏せた。

ほんの短い間に、表情が豊かに変わるミンメイから、
未沙は目が離せなくなっていた。
不自然さも媚もなく、人を引き付ける魅力を目の当たりにして、
自分の抱いた嫉妬や劣等感など、消し飛んでしまうくらい眩しい。
彼女が、何を言わんとするのかが気になって、耳を傾けてしまう。

ミンメイは続ける。
「ほんとに行っちゃうんですね・・・移住先の星は?」
「ええ、探しながらの航海になるわ。
それでもゼントラーディの情報で有力な候補がいくつかあるから、
いつまでもさまようことはないはずよ」
このあたりは、移民志願者が足踏みする理由になっている部分なので、
募集案内にも、各メディアでも、力を入れて歌い上げている。
「マクロスにいたとき、トランスフォーメーションや敵襲以外は全然不便がなくって。
ほんとに宇宙にいるなんて、思えないくらいで。
朝と夜は天井に空が映し出されて、綺麗だったなぁ」
懐かしむミンメイに、未沙も、あのころを思い出す。
同じ時間を、同じ場所で過ごした者同士が作り出す空気が、ふたりを包み込む。
「地球に戻ってきてからの方が、大変だったわ」
「そう思うと、大きな船の方が住み心地、いいかもしれないですね」
ミンメイは天を仰ぐように、身体を伸ばす。
「こんな風に、急に大雨が降ることもないし」
未沙に向けて、彼女は笑んだ。
「…ほんとね」
未沙も、表情を和らげて同意した。
「新しい星が見つかっても、すぐに降りられると限らないから、
メガロードは暮らすために整えられている艦なの。
急ごしらえの街だったマクロスより、住み心地はずっといいはずよ」
トランスフォーメーションがないことを付け加えると、ミンメイは声を立てて笑う。
「宇宙に浮かぶ街なのね。
…見てみたいな」
「飛び立つ前には、一般公開もあるから、是非に」
ええ、とミンメイはうなずき、言葉を選ぶように、少し言いよどんだ。
気づいた未沙は、そっと待つ。
「未沙さん。
私の歌は、文化ですか?」
まっすぐに未沙を見つめて、ミンメイは問う。
「もちろんよ。
あなたの歌で、私たちは生き残れたわ」
ミンメイは、切なげに首を振る。
「それは歌が珍しかっただけでしょう?
はじめて見たものに驚いて、立ち止まっただけ」
「違うわ」
未沙は、強い声でミンメイの言葉を遮る。
「珍しかっただけなら、彼らは味方を裏切ることを選ばなかったわ。
あなたの声が、歌が、彼らの心に届いたから、
戦いではなくて、新しい暮らしを選ぶひとたちがいるのよ。
あなたの歌が、戦い以外の世界があることを知るきっかけになったの。
誰にでもできることではないわ」
きっぱりと言い切ると、未沙は声をやわらげる
「たしかに、あなたのほかにも、できる人はいるかもしれない。
でも、あなたが、やったの。
それは事実だから、もっと自信をもって」
二人はしばらく無言で見つめあい、そして未沙は姿勢を正した。
「ミンメイさん。
あなたの歌は文化だと、私は思っています。
泣いたり笑ったり、誰かを愛したり、ひとが生きていく姿を映し出して、謳いあげる」
ミンメイの瞳が、かすかに潤む。
未沙もミンメイの様子に驚くが、調子は変えない。
「あくまでも私の思ったことよ。
でも、お世辞じゃないわ。そういうこと、私は、好きじゃないの」
そして、未沙は、くすっと笑う。
「ミンメイさんでも、弱気になるのね。
ちょっと安心したわ。
あなたはいつでもかわいらしくて、楽しそうだから」
やだ、とミンメイは応える。
「だって、それがお仕事なんですもの。
憂鬱そうな歌手なんて、だれにも相手にされないわ」
「まあ、たしかにそうね」
小首を傾げ、おどけた様子のミンメイに、未沙も笑った。


                    ☆


未沙はミンメイに、親近感を覚えた。
指揮官が弱気なら、誰もついてこない。
口にできなかった辛さを、共有できた気持ちがした。
トモダチに、なれるかしら?
不快さが薄らいで、嫉妬で苛立っていた心が、
絡まった糸がほどけるように、するするととけていく。

未沙の言葉も、ミンメイの心を優しくなでた。
勢いのあるものにへつらう臭いが一切なく、誠実さが伝わってきた。
住んでいる世界も、見ているものも違う彼女が、
自分のことを、歌手としての自分を認めてくれている、
それがわかっただけで、ミンメイはうれしかった。
以前の自分と輝との関係を思えば、憎まれても仕方がない未沙に。
私情を挟まず、客観的に、正当な評価を受けた、そんな気分になった。


                     ☆


突然、エレベーターの非常呼び出しから、声が聞こえた。
未沙が素早くボタンを押して応答すると、すぐに動き出し、6階で扉は開いた。
よかったぁ、と、喜び合いながら、二人はエレベーターを降りる。
「今度から、エスカレーターにするわ」
未沙が笑う。
従業員が駆けより、落雷による停電で、
エレベーターが故障してしまったと説明を受けた二人は、
体に異常がないことを伝えて、早々にその場を離れた。

ミンメイは、目指した店の前で立ち止まり、未沙は、軽く挨拶を残して先を急いだ。
店先の品物に触れるが、なにかを思い出したように、ミンメイは踵を返す。

今しかない。もうチャンスはない。
あのひとは、ハンカチなんて本当に捨ててくれというだろう。

『愛おぼえていますか』の歌詞を初めて見たときから、感じていた予感。
自分の中を漂う景色が、はっきりと見えるかもしれない。
土砂降りで、人出がまばらなのが幸いして、
エスカレーターに踏み出す未沙の背中を見つける。

「未沙さん」
振り返り、目を見張る未沙に、彼女は切り出した。
「よかったら、ゆっくりお話しませんか?
美味しいお茶を飲みながら」
やわらかく、目尻を緩めた未沙は応えた。
「いいお店、知ってるわよ」

エスカレーターは、未沙の笑顔を乗せていく。
上に着いた彼女は、ミンメイに向かい、小さく手を振った。
それを見て、蕾がほころぶような笑顔を浮かべたミンメイも、
エスカレーターに飛び乗った。







fin






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非公開コメント

No title

> ゆばさん

そうなんですよ!私も思った!!
輝の目の前で握手してたけど、
それ以外の接触ってない・・・はず。←ちょっと弱気(汗)
なのに、どーしてあんなに親しげなんだFB2012、ということで、
こんな風にはじめてみました♪
旦那の元カノなんて、普通ねぇ・・・(;^ω^)
元カレの奥さんなんてねぇ・・・・(;^ω^)(;^ω^)
間に挟まれる旦那が一番つらそうだ(苦笑)
モテる男はつらいねえ、輝。

そして、ゆばさんもお友達経由マクオタ行だったのですね~(≧▽≦)
「あ、これすごく好き」って思ったのは、
4話の「リン・ミンメイ」でしたっ。
助けられたミンメイが、きゃははっ、って笑っているのを、
輝がぐったりと「悪夢だ」って抱えられながら
見てる場面が決め手に(苦笑)
輝のぐったり加減に惚れた~♪
ちなみに、きっかけをくれた友人に
先日「またはまった」って報告したら、絶句されましたが(T_T)

続き、がっくりくると悪いので、
あまり期待せずに待っててくださいね<m(__)m>

No title

> ぱよぷーさん

というか、ファーストコンタクトですね~(^^)
二人で話している場面がなかったにも関わらず、
FLASHBACK2012では、
未沙が後ろからミンメイをがっしり掴んでるので、
きっとなんかあったんだろうな~、って、進めてみました(^^ゞ

続き、のんびり待っててくださいね(大汗)

> VF-4さん

旦那(恋人)の元カノ、元カレの今カノ!!
傍にいてほしくないですね~。
それは正直言って、クソ面白くないですよ(笑)
キッパリ言い切っちゃう(笑)

ミンメイも、未沙への興味が強くあったと思います。
輝が選んだヒトと言う意味で。
そして輝を恋愛対象というフィールドには置いていない気がします。
結婚式を見なかったら、未練は残るかもしれませんが。

輝が軍をやめない時点で、
ミンメイは一緒にいられないと思ったのでは、と解釈しましたが、
ちょっと都合よすぎますかね~(笑)
無事を祈りながら待つのは、誰にでもできることではないと思います。
そういう意味では、一緒に戦う未沙はラッキーなのかも。



> VF-4さん

職場の女性の話ですか~。
内容にもよると思いますが、
旦那さんの働いている様子がわかっていいかもしれませんよ。

ダイダロスアタックを生み出すような性格なので、
未沙は悩むより動くんじゃないかな、と、私は思います(笑)
プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

戴いたコメントは、すべて非表示にしています。

SSの目次を「SS menu」としてリンクに張り付けました。
ご活用ください♪

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