SS <flowers>

やれるうちに、やれることを!!

というわけで、もうひとつUP。
前回の<change>と、同じ夜の出来事です。

楽しんでいただけたら、うれしいです。



* 戴いたコメントにお返事しました。(10/20)








   flowers






夕方、ゲリラ豪雨があり、落雷による停電が各所であったらしい。
帰りのジープの後部座席で、松浦はニュースをチェックする。
ほんの数か月たてば、
雨降りどころか、天気も気候も関係ない場所で過ごすことになる。
アポロ基地が長かった彼は、当時を振り返り、すこし淋しくなる。
マクロスシティの中心部に近い、マンションの前にジープは停まった。

エントランスのロックを解除し、管理人室の前を通りかかると、
荷物が届いていると声をかけられた。
ちょうど両手で抱えるくらいのその箱は、見かけよりはずっと軽く、
しかし、無造作に扱えるものではないので、気を遣う。
大切ななにかを抱くように、彼は受け取り、エレベーターのボタンを押した。

出発までに行う訓練や、遅れている市街地の整備など、
仕事は山積みで、部屋には眠りに戻るようなものだ。
それでもこのエレベーターに乗る瞬間が、
休息が訪れる儀式のようで、彼は好きだった。
張りつめたものが、階を登るにつれ、解かれていく。

部屋に着くと、テーブルに箱を降ろした。
まるで、ちいさないきものを降ろすかのように、丁寧に。
ふたを開け、中を覗いて確認すると、
首を回しながらシャワールームへ向かった。

濡れた髪をタオルでこすりながら、リビングに戻る。
ケータイの着信と、メールを受信したランプが点滅している。
無表情に確認だけして、元の場所に戻した。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルタブを開けた瞬間にインターフォンが鳴る。
松浦は、何も聞こえないかのように、一気にビールを飲み干した。

「レイ、いるんでしょう?」
インターフォンから声が聞こえる。
空になった缶を潰しながら、松浦は玄関に向かう。
開錠するなり、勢いよくドアは開く。
「オマエ、何時だと思ってんの?」
「ごあいさつね、24時間フル稼働の人が、何、言ってんのかしら?」
ミンメイはするりと室内に足を踏み入れ、ソファに座った。
後ろ姿を見つめ、松浦は小さく笑う。
「ばっさりやったな」
得意げにミンメイは微笑む。
「素敵になったでしょう?」
「見せたいから来ただけなんだろ?見たから、もう帰れよ」
松浦も作業用デスクの椅子に腰を下ろして、面倒そうに言う。
ふーんだ、と悪態をつきながら、
ミンメイは壁際に置かれている鍵盤に触れる。
電源の入っていないキーボードは、カチャカチャと爪の当たる音だけがする。
「俺、明日早いんだわ。だから・・・」
「一緒に寝る?」
ミンメイは振り返りながら、あっけらかんと言い放つ。
「俺に子守りをしろと?」
「そんなこと言ってないわよ?」
ミンメイは、ふたたび鍵盤に向き合って、音を立てる。
「レイ、最近淋しそうだから、気になっただけ」
何かを奏でているような指使い。松浦は鍵盤の音階を追ってみる。
いままで長い髪に隠れていた、ほっそりとしたうなじが眩しい。
「忙しいだけだよ」
たどった音階を頭でなぞる。
イマ アナタノコエガキコエル ココヘオイデト
サミシサニ マケソウナワタシニ
まさかお前に気づかれてるとは、俺も落ちたもんだ。
イマ アナタノスガタガミエル アルイテクル
メヲトジテ マッテイルワタシニ
「嘘よ。忙しいだけじゃないわ」
ミンメイは弾きつづける。音のない想いを。
キノウマデ ナミダデクモッテタ セカイハ イマ
「悪い。マジで帰って。今日はひとりでいたい」
ミンメイは手を止める。
松浦は時計に目を走らせる。焦りが浮かぶ。
日付が、変わる。
「頼むから」
震える声。
ミンメイは驚いて彼を見る。
デスクに肘をつき、顔を覆った松浦に駆け寄ると、
振り向いてくれない彼の背中に、また明日ね、と頬を寄せ、部屋を後にした。

ドアが閉まる音の残響が消えると、ゆっくりと顔を起こした。
時計は0時を数分超えていた。
彼は、抱えてきた箱に目を移す。
happy birthday to you
かすかな声で歌うようにつぶやくと、ベッドルームへむかった。




昨夜の天気が嘘のように、見事に晴れ上がった。
松浦は件の箱を抱え、コンビニで、
プラスティックのカップに入り、アルミのふたで密閉されているカフェオレを、
ひとつだけ買った。
タクシーを拾い、民間機専用の空港に向かう。
チャーターした小型機は、彼を乗せると、定刻通りに飛び立った。


褐色のがれきに覆われたその土地は、かつては世界有数の大都市。
小さい島国なのに、あふれんばかりの輝きを放っていた彼の故郷は、
それ故に地球上で最も激しく攻撃を受け、いまだに復旧のめどもつかない。


当時の地図と照らし合わせて、彼はある場所を突き止めた。
見回しても、彼の覚えのあるものはひとつもなく、生きている者の気配すらない。
抱えてきた箱を地面に降ろす。
ひざをつき、落ちている残骸をよけてみても、
当時の様子を思い出させるものは見当たらない。
それでも、無心に手を動かし続ける。
指先に湿り気を感じて目を落とすと、焦茶色の合皮製の手袋が破れ、血がにじんでいた。
天を仰ぎ、強く目をつぶる。
瞼を閉じていても、照り付ける太陽が痛い。
それが、今、この時が悪夢でもなく、現実であることを教えた。
誰もいないその場所で、自分がどんな声をあげたのか、彼は覚えていない。


ポケットに入れた、無線機からの呼び出し音。
彼の休日は、終わろうとしていた。

傍らに置いたあの箱から、丁寧に花の籠を取り出す。
カラフルに盛り付けられた花たちは、場違いなほど生気にあふれていて、
彼を切なくさせた。
彼が大切にしていた『彼女』が、好きだった花たち。
どんなに寒くても、みんなにからかわれても、いつも『彼女』が飲んでいたアイスカフェオレ。
ぬるくなってしまったが、アルミのふたにストローを差し込み、花たちの脇に添えた。
松浦は立ち上がり、ふたたび周囲を見回す。
やわらかい風が吹き抜けるだけで、なんの気配もない。
諦めたように目を閉じ、膝を折り合掌した。
彼が、『彼女』のために手を合わせるのは、これが初めてだった。


小型機は飛び立つ。
彼は汚れた顔をぬぐおうともせず、窓に頭をつけ、無表情に離れていく大地を見つめる。
自分のできることをすべてやりきったが、奇跡が起こらなかった事実だけが残った。

今、彼が抱えている苦しみを乗り越えた彼女のように、
自分も再生できるのか、松浦は賭けてみたかった。
『彼女』を追うのは、いつでもできる。
自分がここに残された理由があるのなら、それを見つけるために、もうすこし生きてみる。

広がる海原を眺める。
オレンジ色に照らされた光景は、彼の中で、大きな何かが終わる感触をくれた。

松浦は、パイロットに声をかけられて、目を覚ます。
いつのまにか眠ってしまったらしい。
目じりに涙が残っていて苦笑したが、
この飛行の目的を察しているのか、パイロットは見ないふりをしてくれた。

夜に包まれたマクロスシティにともされた灯りを、彼は温かく、そして懐かしく眺めた。







fin






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非公開コメント

> ぱよぷーさん

重苦しい話を読んでいただいたうえに、コメントまで!
ありがとうございます~っ。

松浦の痛みは、クローディアや
学生時代(と呼んでもいいのだろうか?)の未沙が抱えたものと
とても近いものと考えています。
あの時代に生き残った、多くの人々のうちのひとりでしかありません。
そのあたりを表現しきりたい!!
力量不足、ひしひし痛感中です(-_-;)

ミンメイは、ミンメイ。
どこまで行ってもリン・ミンメイ(笑)
まだまだ20前の娘さんだし、
どんな大人になるのか、楽しみでーす。
プロフィール

vt-102

Author:vt-102
ぶい、と申します。
30年前、夢中になった
『超時空要塞マクロス』
WOWOWの放送を見て、
当時の思いが蘇って大変中。

戴いたコメントは、すべて非表示にしています。

SSの目次を「SS menu」としてリンクに張り付けました。
ご活用ください♪

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